2010/02/02 [00:26] (Tue)
星の、免疫力によるものだと理解していた。
その病はじわじわと〈人類〉という種のみを蝕んでいたからだ。一度に大量には殺さない。けれど発生数は上回って。
星を脅かさなければそれでいい。
白い建物の上で、オルタナはそんな事を考えていた。
星の様子を見る為降りてきたが意味はなかったようだ。前回と何も変わらない。
息を吐く。
此処が何かもどうでもいい。人など滅びてしまえば良いのだ。
神域に帰ろうかとマフラーを整えた時だった。風にのって、微かな音が聞こえた。
何とはなしに気になって意識を向ける。
白過ぎるこの建物の中から、それは漏れ聞こえていた。
「どうせ暇だからな……」
そうして、す、とオルタナは姿を消した。
建物の中も、異様に白かった。
壁と床の区別がつきにくい。加えて照明まで眩むような白だった。
誰もいない、ある種異様な空間。
長く続く白い壁、等間隔に並ぶ白いドア、白い取っ手。白いプレートに名前はなく、ただナンバーだけが書かれている。
ナンバー697。その部屋から〈それ〉は聞こえていた。
「うた……?」
その音(ね)は、どこか心地よいもので。
澄んだその音の創造主が気になった。
す、と扉を手前に引く。音もなく扉は開いて、細い通路が目の前にあった。
うたは中から聞こえる。
中は、以前入った事のあるアパートやマンションとかいう建造物に酷似していた。しかし真っ白いのは相変わらずで、生活感というものがごっそりと抜け落ちている。
一番奥の部屋。大きく取られたガラス戸から陽光が差し込み、部屋全体を暖かな光で満たしていた。
風に舞うカーテンも白。
開け放たれたガラス戸の向こう。ベランダに人影。近づけばそれは少女のようだった。
あと3メートルまで距離を近付けた時、ふつりと音が止んだ。ふわりと風がカーテンを吹き上げて一瞬視界を埋める。
「乙女の部屋に不法侵入、一体何方かしら?」
白に囲まれた世界で、吸い込まれそうな蒼が、笑った。
++++++
そんな初対面
白い世界。銀の髪に白いワンピース、部屋に負けないくらい白く透き通った肌に一対の蒼い眸。
神である己が、息を呑むほどの。
「先生……ではないわね、足音が違ったもの」
「……迷ったんだ」
「あら、じゃあ何方かへのお見舞い?珍しい」
もっともらしい言い訳も見つからず適当に返せば、彼女は心底不思議そうに目を瞠った。
どうやら此処は病院らしい。異常な白さもその為だろうか。
彼女はふふふと無邪気に微笑んで両手を後ろで組んだ。
「何が、珍しいんだ?」
「だって、好き好んでこの病棟に来る人なんていないもの。誰だって感染したくはないわ」
「感染……?」
そう尋ね返すと、彼女の顔色が変わった。
訝しむような、そんな顔だ。
彼女は足早に部屋の中へ入ってくる。
距離は、凡そ1.5。
「もしかして、此処が何か知らないの……?」
「ああ。まずいのか?」
「まずいに決まってるじゃない!第一、私を見て気付かなかったの?」
「何がだ?」
焦れったさを隠しもせず彼女は眉をひそめる。
訳が分からず彼女を見ていて、そこで気付いた。
彼女の眸は、一度も自分を捉えていない。
「どうやって入ってきたのか知らないけど、とにかくここから早く出て。感染しない内に、早く」
「おい、感染て」
「これだけ言っても分からない?私はね、“白磁病”なの。分かったら早く帰って!」
彼女はオルタナの体を押そうとして、寸前で止めた。そして微妙にズレた視線でオルタナを威嚇し、早く外へと急き立てる。
そんな彼女に押され、訳が分からぬまま部屋を後にした。
白磁病。
それが例の病に対する人間たちの呼称だと、この時の自分は知らなかったのだった。
.
【オリジナル】オルハル
視力を失って、やがて脳が冒され死んでしまう病がある。
その病は感染型で、特効薬はあるにはあるが高価で一部の富裕層しか手に入れられない。
残りは隔離され、死を迎えていく。
特効薬を手に入れられずともある程度裕福なもの達は、隔離されながらも延命治療が受けられる特別な施設へ入院できた。
オルタナ→神
ハルミ→隔離病棟に入院する少女
視力を失って、やがて脳が冒され死んでしまう病がある。
その病は感染型で、特効薬はあるにはあるが高価で一部の富裕層しか手に入れられない。
残りは隔離され、死を迎えていく。
特効薬を手に入れられずともある程度裕福なもの達は、隔離されながらも延命治療が受けられる特別な施設へ入院できた。
オルタナ→神
ハルミ→隔離病棟に入院する少女
星の、免疫力によるものだと理解していた。
その病はじわじわと〈人類〉という種のみを蝕んでいたからだ。一度に大量には殺さない。けれど発生数は上回って。
星を脅かさなければそれでいい。
白い建物の上で、オルタナはそんな事を考えていた。
星の様子を見る為降りてきたが意味はなかったようだ。前回と何も変わらない。
息を吐く。
此処が何かもどうでもいい。人など滅びてしまえば良いのだ。
神域に帰ろうかとマフラーを整えた時だった。風にのって、微かな音が聞こえた。
何とはなしに気になって意識を向ける。
白過ぎるこの建物の中から、それは漏れ聞こえていた。
「どうせ暇だからな……」
そうして、す、とオルタナは姿を消した。
建物の中も、異様に白かった。
壁と床の区別がつきにくい。加えて照明まで眩むような白だった。
誰もいない、ある種異様な空間。
長く続く白い壁、等間隔に並ぶ白いドア、白い取っ手。白いプレートに名前はなく、ただナンバーだけが書かれている。
ナンバー697。その部屋から〈それ〉は聞こえていた。
「うた……?」
その音(ね)は、どこか心地よいもので。
澄んだその音の創造主が気になった。
す、と扉を手前に引く。音もなく扉は開いて、細い通路が目の前にあった。
うたは中から聞こえる。
中は、以前入った事のあるアパートやマンションとかいう建造物に酷似していた。しかし真っ白いのは相変わらずで、生活感というものがごっそりと抜け落ちている。
一番奥の部屋。大きく取られたガラス戸から陽光が差し込み、部屋全体を暖かな光で満たしていた。
風に舞うカーテンも白。
開け放たれたガラス戸の向こう。ベランダに人影。近づけばそれは少女のようだった。
あと3メートルまで距離を近付けた時、ふつりと音が止んだ。ふわりと風がカーテンを吹き上げて一瞬視界を埋める。
「乙女の部屋に不法侵入、一体何方かしら?」
白に囲まれた世界で、吸い込まれそうな蒼が、笑った。
++++++
そんな初対面
白い世界。銀の髪に白いワンピース、部屋に負けないくらい白く透き通った肌に一対の蒼い眸。
神である己が、息を呑むほどの。
「先生……ではないわね、足音が違ったもの」
「……迷ったんだ」
「あら、じゃあ何方かへのお見舞い?珍しい」
もっともらしい言い訳も見つからず適当に返せば、彼女は心底不思議そうに目を瞠った。
どうやら此処は病院らしい。異常な白さもその為だろうか。
彼女はふふふと無邪気に微笑んで両手を後ろで組んだ。
「何が、珍しいんだ?」
「だって、好き好んでこの病棟に来る人なんていないもの。誰だって感染したくはないわ」
「感染……?」
そう尋ね返すと、彼女の顔色が変わった。
訝しむような、そんな顔だ。
彼女は足早に部屋の中へ入ってくる。
距離は、凡そ1.5。
「もしかして、此処が何か知らないの……?」
「ああ。まずいのか?」
「まずいに決まってるじゃない!第一、私を見て気付かなかったの?」
「何がだ?」
焦れったさを隠しもせず彼女は眉をひそめる。
訳が分からず彼女を見ていて、そこで気付いた。
彼女の眸は、一度も自分を捉えていない。
「どうやって入ってきたのか知らないけど、とにかくここから早く出て。感染しない内に、早く」
「おい、感染て」
「これだけ言っても分からない?私はね、“白磁病”なの。分かったら早く帰って!」
彼女はオルタナの体を押そうとして、寸前で止めた。そして微妙にズレた視線でオルタナを威嚇し、早く外へと急き立てる。
そんな彼女に押され、訳が分からぬまま部屋を後にした。
白磁病。
それが例の病に対する人間たちの呼称だと、この時の自分は知らなかったのだった。
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