2008/02/20 [21:29] (Wed)
翌日から、彼女は同じように凌壽のいる木の下に腰掛けて、何をするでもなく俯いているようになった。
それまでのような活発さは影を潜め、溜息ばかりが耳に付く。
不気味さに不快感が募り、凌壽はその場を避けるようになった。
「――何なんだ」
呟いた声は思っていた以上に低く、憎々しげに響いた。
何故そうなったのか考えるのも億劫に感じられ、思考回路をそこで閉ざす。
それから数日後、凌壽はなんとはなしに元の場所へと足を運んだ。
++++++++
その異変に気付こうとさえしなかった
翌日から、彼女は同じように凌壽のいる木の下に腰掛けて、何をするでもなく俯いているようになった。
それまでのような活発さは影を潜め、溜息ばかりが耳に付く。
不気味さに不快感が募り、凌壽はその場を避けるようになった。
「――何なんだ」
呟いた声は思っていた以上に低く、憎々しげに響いた。
何故そうなったのか考えるのも億劫に感じられ、思考回路をそこで閉ざす。
それから数日後、凌壽はなんとはなしに元の場所へと足を運んだ。
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その異変に気付こうとさえしなかった
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2008/02/20 [20:50] (Wed)
「ねえ、凌壽」
返事をするのも億劫で、腰掛けている木の上から彼女を見下ろした。
彼女は根元に寄り掛かるようにして座り込んでいる。
「――いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」
普段快活に喋る彼女にしては珍しく、その声には迷いを抑えようとしているような戸惑いが混じっていた。
「貴方に言ったところで、どうしようもないもの」
ぽつりと零された呟きに瞠目した。
何に驚いたのか自分でも分かっていないというのに、彼女はそのまま何処かへと行ってしまった。
思えば、あれが前兆だったのかもしれない。
「ねえ、凌壽」
返事をするのも億劫で、腰掛けている木の上から彼女を見下ろした。
彼女は根元に寄り掛かるようにして座り込んでいる。
「――いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」
普段快活に喋る彼女にしては珍しく、その声には迷いを抑えようとしているような戸惑いが混じっていた。
「貴方に言ったところで、どうしようもないもの」
ぽつりと零された呟きに瞠目した。
何に驚いたのか自分でも分かっていないというのに、彼女はそのまま何処かへと行ってしまった。
思えば、あれが前兆だったのかもしれない。
2008/02/16 [07:40] (Sat)
――いつもいつもそんな眉寄せてて疲れない?
――いい顔持ってるんだから笑えばいいのに
――あなたがくだらないと見下す世界も、捨てたものじゃない
何故、こんな時に彼女の声が蘇るのか。
眼下の水面を走る波紋が、記憶を揺り起こしているとでもいうのだろうか。
あの村で臆すことなく話し掛けてきた奇異な女。
人の為に命を落とした、愚かな女。
最後に渡された花を捨てられない、理解不能な己。
「……来たか」
神将の風に運ばれてくる気配を感じた。
脆弱な、眷属の気配を。
******
最終決戦直前
――いつもいつもそんな眉寄せてて疲れない?
――いい顔持ってるんだから笑えばいいのに
――あなたがくだらないと見下す世界も、捨てたものじゃない
何故、こんな時に彼女の声が蘇るのか。
眼下の水面を走る波紋が、記憶を揺り起こしているとでもいうのだろうか。
あの村で臆すことなく話し掛けてきた奇異な女。
人の為に命を落とした、愚かな女。
最後に渡された花を捨てられない、理解不能な己。
「……来たか」
神将の風に運ばれてくる気配を感じた。
脆弱な、眷属の気配を。
******
最終決戦直前
2008/02/12 [21:15] (Tue)
「あの時あれを引き止めていたなら――――何かが、変わっていたのだろうな」
儚げに佇む晶霞の呟きを、貴船の龍神だけが聞いていた。
彼女はただ、晶霞の呟きを聞くだけで何もしようとはしない。
「寂しげに微笑むあれに、私はただ、黙っていたんだ」
――私ね、救いたい人がいるの
――もう決めたの。決めたのよ
「あれに渡された花を、凌壽に渡しただけだった」
――最後くらい受け取りなさいよ、って伝えてくれる?
――じゃあね、晶霞。さよなら
自分はそれにでさえ、頷きで返しただけだったのだ。
「あの時あれを引き止めていたなら――――何かが、変わっていたのだろうな」
儚げに佇む晶霞の呟きを、貴船の龍神だけが聞いていた。
彼女はただ、晶霞の呟きを聞くだけで何もしようとはしない。
「寂しげに微笑むあれに、私はただ、黙っていたんだ」
――私ね、救いたい人がいるの
――もう決めたの。決めたのよ
「あれに渡された花を、凌壽に渡しただけだった」
――最後くらい受け取りなさいよ、って伝えてくれる?
――じゃあね、晶霞。さよなら
自分はそれにでさえ、頷きで返しただけだったのだ。
2008/02/11 [16:25] (Mon)
ある日、村の雰囲気が妙だった。
一見いつもと変わらないように見えて、浮き足立つような、ひどく落ち着かない感覚。
元々居心地の悪い村だというのに、それに拍車がかかっていて不愉快だった。
「ん?」
近づく気配を察知して首を傾げた。驚きよりも何故、という思いが首をもたげる。
「凌壽」
「…………珍しい」
現われたのは、姉である晶霞だった。
彼女が自分から近づいてくるなど滅多にないというのに。
彼女は伏し目がちに俯いたまま、囁く様に言った。
「――あれが、死んだよ」
********
あれ=主人公
一見いつもと変わらないように見えて、浮き足立つような、ひどく落ち着かない感覚。
元々居心地の悪い村だというのに、それに拍車がかかっていて不愉快だった。
「ん?」
近づく気配を察知して首を傾げた。驚きよりも何故、という思いが首をもたげる。
「凌壽」
「…………珍しい」
現われたのは、姉である晶霞だった。
彼女が自分から近づいてくるなど滅多にないというのに。
彼女は伏し目がちに俯いたまま、囁く様に言った。
「――あれが、死んだよ」
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あれ=主人公
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