2008/11/21 [16:02] (Fri)
彼らは一体どうしているだろう。
その疑問がもう何度目になるか分からないほど浮かんできているものだと自覚して刹那は首を振った。
慣れ親しんだ操縦桿を握って気分を落ち着ける。“ガンダム”の操縦桿を握るという行為は、それ自体がある種の儀式染みているとマイスターの一人である眼鏡の青年は言っていた。特に刹那や彼にとっては重要な意味を持つ場合が多いのだと。
銃を向けられるほどに反目していた彼がいつの間にかその態度を和らげていた事に気付いたのはいつだったか、刹那は覚えていない。
彼は理解出来たのだと言った。何がとも、何をとも言わなかったが、それがきっかけとなって彼の態度が変わったのは明白である。
それ以来、目に見えて親しいとは言わないまでも、確かな信頼のような不思議な繋がりが出来たように思う。
深く息を吐き出してモニターの時刻を確認する。彼らが小型艇で出て行ってからまだそんなに経過していない。
万が一に備えてガンダムのコクピットでの待機を命じられた刹那と彼は、交渉に出た者たちの帰りを只管待っている。
突如現れた巨大戦艦──ピースミリオンというらしい──はこちらに敵意こそ抱いていないようだが、イコール味方とは言い切れない。あんなもの見た事も聞いた事もないし、“彼”によればヴェーダにもその情報はない。
そのピースミリオンに殆ど丸腰で乗り込んだ彼らの身を案ずるなという方が無理だ。何度も危険だと彼は反対していたが、結局彼らはピースミリオンへ向けて発進してしまった。
──そう言えば、彼は今何をしているのだろう。
自分と同じように思考を巡らせているのか、再度ヴェーダから情報を得ようとしているのか、はたまたそれ以外か。
そういう事は一度気になり出すと消えないもので、刹那は彼と話をしたい衝動に駆られた。
無意識の内に腕が動いてキーを操作し、刹那のガンダムエクシアの隣で待機するガンダムヴァーチェのコクピットへモニターを繋ぐ。
一瞬でヴァーチェのコクピット内が映し出される。ヘルメットをしていない為、彼──ティエリアの紫色の髪が良く見えた。
「ティエリア、今、いいか」
『何かあったのか、刹那』
「何か、という程ではないが、少し尋ねたい事がある」
するとティエリアは眼鏡のずれを直しながら何だそんな事かと息を吐いた。
怪訝そうな顔をしてしまったのは仕方ない事だと思う(普段使わない顔の筋肉がそれほど明確に動いてくれたかは分からないが)(どちらにしろ自分は怪訝そうな顔をした自覚がある)。
君の考えている事くらい予測がつくさ、と彼は笑った(あのティエリアが!)。
不意を突かれて思わず面食らってしまった刹那に、ティエリアはそれを苦笑に変えた。
『向こうへ行ったスメラギ・李・ノリエガたちが気になっているのだろう? それは私も同じだ』
「ティエリア」
『今のところ向こうに目立った変化は見られない。緊急信号も発信されていない。それに彼ら自身に何かあればハロから緊急通信が入る筈だ』
「そう、だな」
淡々と事実を語る彼の声が不安定な心を宥めてくれる。
刹那は知らず内に入っていた体の力を抜いて、深く息を吐き出した。
普段から刹那と同じくらい感情表現をしない彼の言葉が、逆にこういう時は支えになっているという事に本人は気づいていないのだろう。
それに彼は感情表現が乏しいだけで、内では論理的に思考しそれに伴って感情も生み出されている。逆に表面に現れていないだけで、彼は内に激情を孕む事もあるのではないか、と最近刹那は思うようになってきた。
事実、彼はこうして感情を顕わにする様になってきている──以前は作戦についてだけだったのが、だ──し、よく笑うようになったとも思う。
『安心しろ、刹那。二人はマイスターだ。そう易々とやられる訳がない』
「そうだな。────感謝する」
『……!?』
「どうした?」
『どうした?』
いや、とティエリアは眼鏡を直す仕種で衝撃をやり過ごして動揺を誤魔化した。
モニターに映し出されている刹那が不思議そうに首を傾げている。
悟られなかった事に安堵して息を吐きつつ、らしくないなと乱れかけた思考を平常へと戻す事に専念する。
ティエリア? という淡々とした声が己を呼んだ。外部からの刺激を知らぬ内に遮断していたようだ。
「すまない、何でもない」
『ならいいが』
そうして、刹那は何かを考え込むように視線を下げる。
ティエリアはそんな刹那を観察する。今彼は、何を考えているのかと。
納得してはいるようだが、やはりピースミリオンという戦艦に向かった皆が心配なのだと思う。
しかしティエリアはそれが不思議でならない。彼らの中にはマイスターがいる。アレルヤは肉弾戦となればマイスター一の実力を発揮するであろうし、ロックオンの射撃の腕は言うまでもないのだからそれがガンダムの外であっても変わらない。
スメラギ・李・ノリエガやイアン・ヴァスティは戦力外だが、それを差し引いても彼らが負けるなどという事はありえない。
だからこれは保険という名の待機であって、万が一にもこのまま出撃という事はない筈だ。
──最悪の場合を想定しておくというのはセオリーではあるのだが。
「刹那、まだ何か気になるのか」
呼びかければ彼は素早く顔を上げて視線を合わせてきた。赤銅色の双眸が真っ直ぐティエリアに向けられている。
以前は、この双眸が苦手だった。
彼の双眸は真っ直ぐ過ぎて、貫かれて全て見透かされているような錯覚を起こさせる。何も後ろめたいものはないにも関らず、体が勝手に動揺してしまうのだ。
しかし今、そんな事はない。
彼が真っ直ぐ相手を見つめるのは、思い込みも何もなく相手を見極めようとするからだ。他人の意見に流されず、自分の目で見て判断しようとするからだ。
だから彼の瞳は真っ直ぐ相手を射抜く。相手の本質を見極めようという意思が矢となって相手を貫くのだ。
己は、そんな彼にどう思われたのだろうか。
『特に言うような事ではない』
「……そう言われたら気になるだけなんだが」
『…………』
刹那は数瞬考え込むような素振りを見せた後、少々言いにくそうに切り出した。
『向こうの要請が真実で対話が上手くいっていたとする』
「ああ」
『スメラギ・李・ノリエガとイアン・ヴァスティに不安要素はない。だが、ロックオン・ストラトスとハロには多大な不安要素があるように思ったんだ』
「……アレルヤは?」
『ロックオン・ストラトスに比べれば少ない』
「確かに」
あのロックオンの事だ、場の空気も読まずに発言して相手方の機嫌を損ねるという事態は容易に想像できる。
彼の相棒であるハロはそれを煽る可能性がかなりあるし、スメラギやアレルヤの抑制も無視して突っ走りそうな予感もある。
相手が温厚ならばいいが、気難しい老人だったりしたら一発でアウトだ。
だが不安要素ではあるがそれが其処まで問題になるようにも思えなかった。アレルヤがそれを宥めてくれるような気がしたのだ。
希望的観測だが。
「其処まで気にする事でもないだろう。我々は此処で待機していればいいんだ」
『分かった。あの二人もガンダムマイスターだからな』
「ああ、マイスターならば問題はない」
彼の表情は動かないが、その表情には安堵が浮かんだように見えた。
そう言えば、自分はまだ彼の笑顔というものを殆ど見た事がない。自分以上に彼は表情が変わらないのだ。
人間として生み出されなかった己ならば分かるが、彼は生まれた時から人間であった筈だ。
彼の経歴はヴェーダが教えてくれた。クルジスに生まれ、アリー・アル・サーシェス率いるテロ組織に所属、Oガンダムに魅せられて世界を変える者(ガンダム)になる事を決意、そしてヴェーダに選ばれてソレスタルビーイングのエージェントとなった。
彼はずっと神を探しているのだと聞いた事がある。それは過去見たOガンダムなのか、それともまた別のものなのか。
ティエリアには分からない。彼にとって神とは、ヴェーダであったのだから。
会話が終わったのだから通信をきればいいのに、刹那は一向に通信を切ろうとしない。ティエリアを見ている訳でもないし、様子からしてもう用事は終わったのだと考えられるが、何故彼がそうしないのか分からなかった。
しかし会話が途絶えてから中途半端に時間が過ぎていて、ティエリアから通信を切るというのもおかしいような気がした。
結局、それから何も会話がないのにも関らず、通信回線はずっと開きっぱなしだったのであった。
【その他版権】
ガンダムW×ガンダムOOのクロスオーバー続き
1×2、3×4前提。五飛は妹蘭がいるのでBLCPはなし。
・ティエリアの性格は二期っぽい
・でもトレミーのクルーとかマイスターとかは一期
・原作完全無視
・ハレアレ、ティエ刹ティエ前提。ロックオンはお父さんとかお兄さんとかそんな感じ。
1×2、ティエ刹ティエ贔屓
すべてOKな方はどぞ!
第二話はティエ刹です。それのみです。
ガンダムW×ガンダムOOのクロスオーバー続き
1×2、3×4前提。五飛は妹蘭がいるのでBLCPはなし。
・ティエリアの性格は二期っぽい
・でもトレミーのクルーとかマイスターとかは一期
・原作完全無視
・ハレアレ、ティエ刹ティエ前提。ロックオンはお父さんとかお兄さんとかそんな感じ。
1×2、ティエ刹ティエ贔屓
すべてOKな方はどぞ!
第二話はティエ刹です。それのみです。
其 頃
(馬鹿二人──恋は盲目)
彼らは一体どうしているだろう。
その疑問がもう何度目になるか分からないほど浮かんできているものだと自覚して刹那は首を振った。
慣れ親しんだ操縦桿を握って気分を落ち着ける。“ガンダム”の操縦桿を握るという行為は、それ自体がある種の儀式染みているとマイスターの一人である眼鏡の青年は言っていた。特に刹那や彼にとっては重要な意味を持つ場合が多いのだと。
銃を向けられるほどに反目していた彼がいつの間にかその態度を和らげていた事に気付いたのはいつだったか、刹那は覚えていない。
彼は理解出来たのだと言った。何がとも、何をとも言わなかったが、それがきっかけとなって彼の態度が変わったのは明白である。
それ以来、目に見えて親しいとは言わないまでも、確かな信頼のような不思議な繋がりが出来たように思う。
深く息を吐き出してモニターの時刻を確認する。彼らが小型艇で出て行ってからまだそんなに経過していない。
万が一に備えてガンダムのコクピットでの待機を命じられた刹那と彼は、交渉に出た者たちの帰りを只管待っている。
突如現れた巨大戦艦──ピースミリオンというらしい──はこちらに敵意こそ抱いていないようだが、イコール味方とは言い切れない。あんなもの見た事も聞いた事もないし、“彼”によればヴェーダにもその情報はない。
そのピースミリオンに殆ど丸腰で乗り込んだ彼らの身を案ずるなという方が無理だ。何度も危険だと彼は反対していたが、結局彼らはピースミリオンへ向けて発進してしまった。
──そう言えば、彼は今何をしているのだろう。
自分と同じように思考を巡らせているのか、再度ヴェーダから情報を得ようとしているのか、はたまたそれ以外か。
そういう事は一度気になり出すと消えないもので、刹那は彼と話をしたい衝動に駆られた。
無意識の内に腕が動いてキーを操作し、刹那のガンダムエクシアの隣で待機するガンダムヴァーチェのコクピットへモニターを繋ぐ。
一瞬でヴァーチェのコクピット内が映し出される。ヘルメットをしていない為、彼──ティエリアの紫色の髪が良く見えた。
「ティエリア、今、いいか」
『何かあったのか、刹那』
「何か、という程ではないが、少し尋ねたい事がある」
するとティエリアは眼鏡のずれを直しながら何だそんな事かと息を吐いた。
怪訝そうな顔をしてしまったのは仕方ない事だと思う(普段使わない顔の筋肉がそれほど明確に動いてくれたかは分からないが)(どちらにしろ自分は怪訝そうな顔をした自覚がある)。
君の考えている事くらい予測がつくさ、と彼は笑った(あのティエリアが!)。
不意を突かれて思わず面食らってしまった刹那に、ティエリアはそれを苦笑に変えた。
『向こうへ行ったスメラギ・李・ノリエガたちが気になっているのだろう? それは私も同じだ』
「ティエリア」
『今のところ向こうに目立った変化は見られない。緊急信号も発信されていない。それに彼ら自身に何かあればハロから緊急通信が入る筈だ』
「そう、だな」
淡々と事実を語る彼の声が不安定な心を宥めてくれる。
刹那は知らず内に入っていた体の力を抜いて、深く息を吐き出した。
普段から刹那と同じくらい感情表現をしない彼の言葉が、逆にこういう時は支えになっているという事に本人は気づいていないのだろう。
それに彼は感情表現が乏しいだけで、内では論理的に思考しそれに伴って感情も生み出されている。逆に表面に現れていないだけで、彼は内に激情を孕む事もあるのではないか、と最近刹那は思うようになってきた。
事実、彼はこうして感情を顕わにする様になってきている──以前は作戦についてだけだったのが、だ──し、よく笑うようになったとも思う。
『安心しろ、刹那。二人はマイスターだ。そう易々とやられる訳がない』
「そうだな。────感謝する」
『……!?』
「どうした?」
『どうした?』
いや、とティエリアは眼鏡を直す仕種で衝撃をやり過ごして動揺を誤魔化した。
モニターに映し出されている刹那が不思議そうに首を傾げている。
悟られなかった事に安堵して息を吐きつつ、らしくないなと乱れかけた思考を平常へと戻す事に専念する。
ティエリア? という淡々とした声が己を呼んだ。外部からの刺激を知らぬ内に遮断していたようだ。
「すまない、何でもない」
『ならいいが』
そうして、刹那は何かを考え込むように視線を下げる。
ティエリアはそんな刹那を観察する。今彼は、何を考えているのかと。
納得してはいるようだが、やはりピースミリオンという戦艦に向かった皆が心配なのだと思う。
しかしティエリアはそれが不思議でならない。彼らの中にはマイスターがいる。アレルヤは肉弾戦となればマイスター一の実力を発揮するであろうし、ロックオンの射撃の腕は言うまでもないのだからそれがガンダムの外であっても変わらない。
スメラギ・李・ノリエガやイアン・ヴァスティは戦力外だが、それを差し引いても彼らが負けるなどという事はありえない。
だからこれは保険という名の待機であって、万が一にもこのまま出撃という事はない筈だ。
──最悪の場合を想定しておくというのはセオリーではあるのだが。
「刹那、まだ何か気になるのか」
呼びかければ彼は素早く顔を上げて視線を合わせてきた。赤銅色の双眸が真っ直ぐティエリアに向けられている。
以前は、この双眸が苦手だった。
彼の双眸は真っ直ぐ過ぎて、貫かれて全て見透かされているような錯覚を起こさせる。何も後ろめたいものはないにも関らず、体が勝手に動揺してしまうのだ。
しかし今、そんな事はない。
彼が真っ直ぐ相手を見つめるのは、思い込みも何もなく相手を見極めようとするからだ。他人の意見に流されず、自分の目で見て判断しようとするからだ。
だから彼の瞳は真っ直ぐ相手を射抜く。相手の本質を見極めようという意思が矢となって相手を貫くのだ。
己は、そんな彼にどう思われたのだろうか。
『特に言うような事ではない』
「……そう言われたら気になるだけなんだが」
『…………』
刹那は数瞬考え込むような素振りを見せた後、少々言いにくそうに切り出した。
『向こうの要請が真実で対話が上手くいっていたとする』
「ああ」
『スメラギ・李・ノリエガとイアン・ヴァスティに不安要素はない。だが、ロックオン・ストラトスとハロには多大な不安要素があるように思ったんだ』
「……アレルヤは?」
『ロックオン・ストラトスに比べれば少ない』
「確かに」
あのロックオンの事だ、場の空気も読まずに発言して相手方の機嫌を損ねるという事態は容易に想像できる。
彼の相棒であるハロはそれを煽る可能性がかなりあるし、スメラギやアレルヤの抑制も無視して突っ走りそうな予感もある。
相手が温厚ならばいいが、気難しい老人だったりしたら一発でアウトだ。
だが不安要素ではあるがそれが其処まで問題になるようにも思えなかった。アレルヤがそれを宥めてくれるような気がしたのだ。
希望的観測だが。
「其処まで気にする事でもないだろう。我々は此処で待機していればいいんだ」
『分かった。あの二人もガンダムマイスターだからな』
「ああ、マイスターならば問題はない」
彼の表情は動かないが、その表情には安堵が浮かんだように見えた。
そう言えば、自分はまだ彼の笑顔というものを殆ど見た事がない。自分以上に彼は表情が変わらないのだ。
人間として生み出されなかった己ならば分かるが、彼は生まれた時から人間であった筈だ。
彼の経歴はヴェーダが教えてくれた。クルジスに生まれ、アリー・アル・サーシェス率いるテロ組織に所属、Oガンダムに魅せられて世界を変える者(ガンダム)になる事を決意、そしてヴェーダに選ばれてソレスタルビーイングのエージェントとなった。
彼はずっと神を探しているのだと聞いた事がある。それは過去見たOガンダムなのか、それともまた別のものなのか。
ティエリアには分からない。彼にとって神とは、ヴェーダであったのだから。
会話が終わったのだから通信をきればいいのに、刹那は一向に通信を切ろうとしない。ティエリアを見ている訳でもないし、様子からしてもう用事は終わったのだと考えられるが、何故彼がそうしないのか分からなかった。
しかし会話が途絶えてから中途半端に時間が過ぎていて、ティエリアから通信を切るというのもおかしいような気がした。
結局、それから何も会話がないのにも関らず、通信回線はずっと開きっぱなしだったのであった。
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