忍者ブログ
少年陰陽師、オリジナル、偶にその他版権のネタ置き場
  2024/05/09 [16:50] (Thu)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




  2008/05/07 [17:03] (Wed)



 初めてそれを見たのは、多分、物心つく前なんじゃないかと思う。
 後で聞いた話だけど、生まれて間もない頃から"何もない空間"を凝視する癖があったらしい。
 そして誰もいないのに笑いだしたり、泣きだしたりもしたそうだ。
 そして初めて発した言葉は、「ママ」でも「パパ」でもそれに似た言葉でもなく、「じーじ」だったらしい。
 当時僕は父母と三人暮し。明らかにおかしい。
 それなのに母は「まあ賢い」と喜んだというから強者だ。父も似たり寄ったりな反応だったらしい。
 今考えても不思議な両親だ。
 そんなこんなで分かるように、僕には"他人には見えないもの"を見る癖、否僕自身の意思とは関係ないのだから、それらが見えてしまう質がある。
 それが分かった時の母の反応は、予想を裏切らず「悠ちゃん凄いわ!」だった。
 父に至っては「よくやった!」と感激して特上寿司を頼みだす始末に。
 おかしいと思うよ流石に。我が両親ながらその精神を疑ってしまう事もしばしば。
 とまあそんなこんなで、自分が普通とはちょっとだけ違うという自覚も持って、僕的には普通の子と殆ど変わりなく育ったと思う。

「そう……僕はただ歌が好きな高校生なんだ」
「は?」

 素っ頓狂な声が返ってきて、初めて声に出ていた事に気付いた。
 声を返すと同時に、鋭い紫苑の瞳で見上げてきたのは、傍らに伏せる銀色の狼。
 体長は170センチある僕よりもあって、尻尾を合わせれば2メートルを余裕で越すだろう。

「ただ唄うしか能はないんだよ」

 僕の視線の先には、誰もいない。
 古ぼけた公園の一角で、風に揺られているブランコを凝視する形になっている。
 だが本当は、"いる"。
 見えていないだけで、およそ人とはかけ離れたものが。

「――だから我は此処に居る」
「……響音」

 狼――響音(ひびね)はのそりと立ち上がって口角を釣り上げた。
 銀色の毛並みが、光の具合で虹色に見えるから不思議だ。
 響音は一度尾を振ると、何も言わずにこちらを向いた。

――歌え

「……うん」

 ブランコの鎖に巻き付くように漂うもの。
 黒く曖昧な靄。
 昇れ。
 迷いを捨て、光を目指せ。

「――…」

 風が止んだ。
 ブランコも揺れを止め、黒い靄が怯えたように震える。
 響音が心地好さそうに目を閉じた。
 紡ぐのは旋律。
 歌詞も意味もない、その場限りのメロディー。
 込めるのは、祈り。
 さあ、盲目的な目を開き、真実の瞳で空を見上げて。
 降り注ぐ光へ上れ。

 黒い靄が一際大きく震える。
 そして一瞬にして元々無いに等しい輪郭を失い、別の輪郭を形作った。

「子供、か」

 響音がぼそりと呟いたのを合図に歌を止めた。
 ブランコの隣で、六歳くらいの男の子が僕を見つめて笑っている。

『…お兄ちゃん、ありがと』

 無言のまま微笑み返してあげれば、彼はにっこりと笑って手を振った。
 彼は見つけたのだ。
 光へ続く道を。

『バイバイ!』

「――気を付けてね……」

 少年が光に溶ける。
 零れた粒子は迷う事なく空を目指して昇っていった。





+++++++++++
下の続き?
たぶんもう続かないはず。
PR



Comment
Name 
Title 
Mail 
URL 
Comment 
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
[16] [15] [14] [13] [12] [11] [10] [9] [8] [7] [6
«  Back :   HOME   : Next  »
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
性別:
女性
趣味:
サイトめぐり、創作他色々
自己紹介:
少年陰陽師、REBORN!大好き。
TOAも緑っ子愛v
pop'nは神と?愛v
気軽に声を掛けてくださいな♪
最新コメント
バーコード
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]